チャイニーズ・レンズ /于前 竹内書店新社

新刊屋さんの広告や、帯に踊る紹介文には「今世紀最高の恋愛小説」「現代の病理を鋭く描くノンフィクション」「エロスと美の共同作業!今話題の写真集」・・・・

始めは何を大袈裟にと無視をしているのですが、ひょっとしたらとんでもない見落としをするのではないかと次第に自信が無くなり、そろそろと書架の前に惹きつけられて・・・・・
今世紀最高の恋愛小説って、やはり読んでみたいですよ。
エロスと美の共同作業だなんて・・・・そんな・・・

4年近く書き継いできたこの徳さんの感想文ですが、感想文の体をしていながら、やはりみんなに読んでほしくて紹介しているのが本音なんです。
もちろん私の才の無さや、的外れなことで逆に敬遠されることもあるでしょうが、基本的には読んでほしいのです。

なにやらわけ分からない前置きになってしまったのは、他でもありません。
実は本書のような本に出会った時に、なんと紹介していいのかいつも困ってしまうのです。
是非読んでもらいたいが、あまり力が入りすぎても嫌だろうし、先入観を植え付けるのは避けたいし、パリッとみんなが本屋に走りたくなるような気持ちにさせるには、どう紹介したら・・・・そのままネット書店で検索したくて指をむずむずさせる決め文句は・・・・

あれこれ考えてはいつも「嗚呼、今回も乱れた文脈でいいや!次回ちゃんとしよう!」
ということで、4年間の反省も活かされず今月の感想文です。

彼女の生活が浮かび上がっていますが、私小説ではないんです。
本職がカメラマンということで多数の写真もありますが、写真集というわけでもでもないようです。
日本についての鋭い指摘が続きますが、日本人論まで堕落していません。
エッセイかと言うと、それでもなさそうです。
流暢ではない日本語が、余計に日本語のヒダを撫で回し、詩集で感じる言葉の戦いを強いられます。
そしてそんな読了後に見た著者の近影が、これまた想像以上に可愛いことに愕然としてしまいます。(深い意味はありませんので、あしからず・・・)

中国から写真の勉強に1人渡航してきて、様々な状況で日本を問い、自分を見つめ、レンズを覗き多くの写真を撮ってきた彼女の第1作がこの本です。

そんな彼女の文章や写真の視線に、私はなぜか「恨み」を感じてしまうのです。
なぜ?どうしてそこまで?そして何を?

しかしそんな視線とは裏腹に、彼女が切り取った写真にはカップル達が笑顔でこちらを見つめ、ゆっくりと息を吐いています。
雑踏の中に伸びる一筋の影も、日向ぼっこに身体を横たえているようだし、孤独な目の中には、おずおずと手を差しのばしてくる気持ちが見えてます。

彼女の優しさが投影されているなんて、安易に言うつもりありません。
搾り出すように綴った日本語は、ごつごつと立ち止まり、分からない分からないと泣いています。
中国人、日本人、外国人、言葉、私、文化、夫婦、写真、一人、お母さん、分からない、ワカラナイ・・・・

各文の小題が中国語と日本語で書かれていて、その両言語に触れることによって読者自身の指で言語が持つズレを辿れます。
ただ時々彼女の生の感情がそこに潜み込まれていて、無神経な私の指を思いっきり拒否し、私は電撃を受けたように飛び退かざるをえない事もしばしばです。
そうやって尻ごんでしまった私は、それでも通り過ぎることが出来ずに、ゆっくりと彼女の呟きに身を沿わせてしまうのです。

日本語は、中国人である彼女によって再生の息吹を与えられ、可能性の産声を上げることができました。

「わ・か・ら・な・い。ワ・カ・ラ・ナ・イ。・・・・・」と。

東大講義人間の現在(1)脳を鍛える /立花隆 新潮社
21世紀知の挑戦 /立花隆 文藝春秋

立花さんって・・・・本当に・・・・知識の王道を・・・
分かりやすく先端思想や問題点を炙り出すのはこの人の十八番ですが、このシリーズはその集大成といえるものになることでしょう。
しかし、この分かりやすさはひょっとしたら両刃の剣で、これらの解説を入り口に自分の好奇心を喚起される事もあるでしょうが、分かったつもりになって(何を隠そう私がずっとそのような立花ファンだったのですが・・・)自分の脳細胞の分裂をなおざりにしてしまっているのかもしれません。
もちろんこの責任は、著者にはありません。
しいて言えば、凡庸な入門書にはなれず優れてしまった宿命なのです。

ただ1点危惧することを言えば、確かに立花さんの現在知王道は、現在のパラダイムでは無類の力を持っているでしょうが、新パラダイム発想には逆に作用するのではないかということです。
現代知の権化のような東大生に、エリートを説いたり、先端者の自覚を説いたりしても始まらないような気がしてしまいます。
もちろん新パラダイムを生むためには、今のパラダイムから出発しなければなりません。
しかしその為に、現代パラダイムの大イメージを今彼らに説いているならば、何か裏悲しさを感じてしまうのは私だけでしょうか?

たまご アンジュールある犬の物語 セレスティーヌアーネストとの出会い /ガブリエル・バンサン ブックローン

(97年7月感想文)

毎日曜日の10時には、近くの図書館を散策しています。

借りた本を返し、新しく届いた本を受け取り、読みたい本を注文して、書架をブラブラとする。
そうやって最後に行き着き一番時間をかけるのが、実は児童書のコーナーなんです。

コータローとモモコは勝手に自分の本を選び、僕は2、3冊絵本を借ります。
この2、3冊の絵本選びが、実に楽しいのです。

偶然手に取ったバンサンの『たまご』。
この絵にショックを受け、次々と借りてしまいました。
絵本というより画集に近い雰囲気で、しかも線が生きているのです。
この線が、本当に凄いです。

物語の意味解釈をすることに慣れて、自然とそのようにしか考えられなくなってしまったこの頭には、一服の清涼剤どころか、ガツンと一発、意味の分からない星一徹の鉄拳です。