閉ざされた世界の中で懸命に生きる子供たち アジアの子供たちは今/池間哲郎 講述録

我々の目の前に広がっている世界が、特別だとは思っていましたが、特別どころではなく「特異」なのです。

テレビや新聞や『世界がもし100人の村だったら』などで報じられる情報で、ぼんやりと想像はしますが、その瞬間暑さ寒さに文句を言い、腹具合を探っては何を食べるか選択に迷います。

統計が取られているデータですら、日に4万人、2秒に1人の人間が貧しさと餓えで死んでいます。
本当に貧しい人達は、国家や機関の実態統計から漏れていますから、実数としたらこの数倍・数十倍の悲惨な状況が現実としてあるはずです。
1秒に数人から数十人の人が・・・そしてその死んでいく人の90%以上!が「子ども達」なんです。

よく言われるように、豊かな国に属している世界の20%の人が、世界の食料の70パーセント以上を食べてしまっています。(現実には、数〜10数%の人間で・・)
しかも、日本とアメリカの2カ国だけで、世界の食料とエネルギーの半分近くを消費し尽くしているのです。

フィリピンのゴミの山に住むスモーキーマウンテンの子ども達は、常時地面からウジが湧いてくる場所に住み、ダイオキシンなどの猛毒の中で息を吸い、極寒のモンゴルやロシアの子ども達は、温水管の通っている地下のマンホールに住んでいます。
その汚水の中で暖を取るのは人間だけではなく、ゴキブリやネズミ・・・

ネズミは、人間の唇と耳からかじってゆくそうです。
どんな所でも寝て、ウジが湧く食べ物も子ども達と一緒に食べてきた著者ですら、横になった瞬間、顔に群がってきて唇をかじるネズミには耐えられず、3時間でマンホールを出てしまいました。
だからここに住む子ども達は皆一様に、唇が腫れ、耳が崩れてしまっているのです。

ある少女に「あなたの夢は何ですか?」と聞いてみたところ、
「私の夢は、大人になるまで生きることです。」と笑顔で答えたそうです。

確かに私達は日本に住んでいます。
私達は私達の悩みを抱え、日常での生活や直面している問題に四苦八苦しています。
見たこともない国の子どもや、知りもしない人達の境遇にまで構っている余裕も余力もありません。
人は、目の前の現実を通してしか世界を理解できません。
その通りだと思います。

しかし、「自分の現実」と全く違う「価値観」や「現実」を相対的に想像する事で、かろうじて「自分の現実」が絶対的でなく暫定的で特異な「現実」であることに想いが馳せれるように思います。
人はいつも正しく、強く、良心的ではありません。
楽がしたいし、自分には甘く他人に厳しく、都合が悪いことには目をつぶりたいです。

「自分の現実」にあの子達が常に住む事は無理ですが、書物で出会った時、報道で見知った時、自分の考えや現実が「確信」に染められた時、隣にいる「他者」と語る時、「違う存在と現実を生きる他者」を想像する努力だけは失いたくないと思っています。

今この瞬間!数十人の子ども達が餓死しました。
(2004年10月)