二人のアキラ、美枝子の山/平塚晶人 文芸春秋

美枝子は、日本の伝説的クライマーの松濤明(アキラ)の恋人と噂され、彼の遭難の話が井上靖の『氷壁』のモデルになったことはよく知られています。
その後、日本の先鋭的登山グループ第二次RCCの中心人物高山章(アキラ)の奥さんになり、高山の自死に直面しながらも現実を生き抜いたノンフィクション作品です。

これが著者と美枝子との往復書簡で書かれていて、引き込まれてしまいました。
私は登山しないので分かりませんが、冬山のラッセルや登山の専門用語も出てくるので、経験のある方には堪えられないと思います。(私でも想像しながらどきどきしてしまいました。)

「山はロマンチストでなけりゃ登れませんよ」・・・・・ひりひりとしたロマンチスト達の話です。

あなたはひとりぼっちじゃない/アダム・ヘイズリット 新潮社クレストブックス

今年出合った、最良の短編集です。

「神の求め給う捧げ物は砕けたる魂なり。神よ、砕けたる悔いし心を軽く見なし給うことなかれ」
(旧約聖書詩篇51ー19)

静謐な文章が、人間の孤独を浮かび上がらせ、なぜか「美しい」世界だと気付かされます。

変わる家族変わる食卓 真実に破壊されるマーケティング常識/岩村暢子 勁草書房

人の意識に大きな変容が訪れた時、現れてくるのは「性」や「食」や「睡眠」などの生存領域だと頑迷に信じているのです。
有意識層の変化の核は、無意識層の相互流や反転、位相転換を引き起こしているはずだと・・・

「性」や「睡眠障害」などの例は、比較的文献などでも辿りやすかったのですが、「食」に関しては良い書物に出会えませんでした。
あるにあるのですが、著者の大鉈振りの断定文明論ばかりで、多種ある「食」外の社会要素との水脈が結びにくかったのです。

本書の特徴は、実際の食事サンプルが写真入で多数掲載してあり、生の発言が多く添えられている事です。
著者による様々なパターン分類や視点は提示されているのですが、読みながら自分流に再構築が可能でとても刺激的でした。

親達が持っている「自己愛」に対する距離や、変質が、ようやく「食」として語られる事が可能なテキストを与えられました。
食に対する捉え方で、親の世代層に大きな「断層」が見られ、それが家庭科授業の指導要綱の変換が符合することなども、慧眼だと思います。

平易な言葉で紹介してあり、我が家の食生活や知人の食生活を思い浮かべ、「そう言えば、そんな面もあるな〜」などと、気楽でありながらその影響に、暗澹たる気分にもさせられました。

とにかく、ヒント満載です。
(2004年12月)