問題になっている少年Aの調書を読んだ。
気楽に書ける話題でもなく、気が重くなること一頻りだし、不安定ではあるが、立場を表明した上で、今後の問題を考えたり、反省したりしたいと思う。文春記事で大きな問題は、公益性の多少による情報の公開と、事件をどう考えるかの2点だと思う。当然ながらこの2点が絡み合っているので、問題は複雑になっている。
僕の結論から言うと、情報の公開性はもっと高めるべきである。そして、今回の記事は載せるべきではない、になる。調書の前に、立花隆が掲載にあたっての正当性を述べている。それによると、事件が社会的に無視できず、国民全ての問題に関わると考えられる時、公益性が優先され、その情報は公開されるべきであるとの主旨。当然ながら少年法の理念は尊重しながら、情報の事実を確認した上で、となっている。基本的には僕もそう考えます。では何故立花氏はGOで、僕はNOなのか。実はここにこの問題の最大の困難があります。
公益性の優先度を誰が判断するのか、公開されるべき情報とは何なのか。公益、国民等の概念の総意とは?
具体的に今回の調書で考えてみましょう。この調書を読むと、殺害情況が冷静に、しかも坦々と語られています。書かれているこの文体は、少年の文体ではないのですが(検事及び調書の文体である)読むと少年が迷いもない真直ぐな目で、口元は自嘲気味に笑みでも浮かべているかの様な印象を与えるぐらい冷徹です。そして残酷です。語られている内容は事実に限りなく近いのかもしれませんが、語られ方は事実を隠蔽する何ものでもありません。そしてその隠されたものが、本当は知らなければならない情報なのです。
僕も含めて、この調書を読んだ大多数の人は、少年への憎悪と特異性(自分に関係ねえや)を増すだけでしょう。これは、この事件の最悪の受けとめられ方です。多くの人が読んで問題を考える機会にすべき情報のされ方とは思いません。
混同してはならないのは、調書とは何かです。調書とは、裁判で事実を確認し、被告人の将来を判断するための資料なのです。少年の置かれた現代の問題や、国民全てが考えてゆかなければならない問題として考えられた資料ではないのです。そういう意味では、調書は情報の一部です。
では調書の全面公開はだめなのか。違います。今回の調書においても、少年を取りまく環境、心情発露、学校、親、人間、世界との関係を考えている箇所などは公開されるべき情報であると思います。(個人の匿名や人権への配慮の上で)また、調書も各種あって家裁調査官による調書などがあり、殺害の情報中心の調書だけが全貌として情報を流されるのはおかしいと考えます。
殺害がどんな手口で、どんな順番でどんな風に進行したのか、これを知ることがこの事件を知って、自分の、そして現代の問題として考えることなのでしょうか?
そして何よりも、調書で語る少年の親や、被害者の親のことを考えると、正直に言って胸の潰れる思いです。いいや、こんなヒューマンな言葉で言うのは止めます。親達の人権を完全に無視した犯罪であると思います。
彼らの個の尊厳を認めない公益性など僕は認めません。
情報の特権化された専用は、許されるべきでもなく、裁判所や警察・政府・マスコミもその例に漏れません。はっきりとした公開のラインを引くには、それこそ多くの問題があって難しいと思うし、ケース・バイ・ケースであるとも言えます。しかし原則としては、限りなく情報は公開する。ただし、公益性の名の基に個人の悲しみを踏みにじる事は許さない。これが僕の基本です。
今回の少年Aの調書を考えてみると、現在の過剰反応しているマスコミ情況のなかでは、親の悲しみを増すことはあっても、現在の問題として冷静に考える資料には成りえないのではないかと考えます。調書の中での、殺害の手順は非公開、少年の考え、学校環境等は公開、同時に、他のこれに類する調書も公開する。十数年の後に、残りの資料も公開して手続きを取ることによって、その情報を知ることが出来るシステムをつくるべきだと考えます。
最後にその制度としての原案を記しておきます。先に書いたように、個人の人権を最大限に考慮した地点で、第3者による情報公開の第1次選択を行なって、可能な限り公開します。次にケースによって数年から数十年後に、残りの情報も全て公開します。ここで第1次公開における選択の是非を判断して、現行の第1次公開にフィードバックする。当然ながら、討議・選択過程も公開します。この様な制度の上でないと、事件の度に公益性とプライベイトの問題が感情的に叫ばれ、単に好奇の目に曝された、加害者・被害者関係の人々の無念の涙が流されるだけです。
常に可変的で、判断と選択は、限りなく公開された情報において行なう。そんな制度であるべきだと考えます。
この問題については、反論がある人が多いのではないでしょうか。共に真剣に考えることのみが、この事件の唯一の救いです。多くの返信を求めます。 |