私は昔から推理ものが好きでした。
小学生の頃、クリストファ・ブッシュ「完全殺人事件」が載っているまっ黒い世界推理全集の1冊がどうしても欲しくて、本屋の前を通る度にその全集の前まで親を連れてゆき、半分泣き顔で買って買ってと言い続けたんです。
親は、まだ無理だと反対したですが、結局根負けしてしまいました。
30数年前での定価で2000円以上していて、今だったら数万円近いのかも知れません。
若い貧乏夫婦には、大変な出費だったでしょう。
私はそんなことを気にも留めず、嬉しくて宝物のようにして持ち帰った記憶があります。
しかしこの本は、推理好きだけの小学生には難しくて、結局最後まで読めませんでした。
はじめは「面白い?」と聞いていた親も何も言わなくなり、高校ぐらいまで私の本棚に叱咤するように鎮座していました。
しかし、どういうわけか同時収録されていたE・S・ガードナー「ビロードの爪」は、一気に読んでしまえたのです。
有名なペリーメイスン・シリーズの第1作ですが、児童向けの推理に読み飽きていた私は、本物を読んでいる優越感と大人の世界を覗いたような気分で<舞台は遠い外国、美貌の人妻(どんなか分からないが、とにかく凄そう)法廷・・・>ドキドキだったのを覚えています。
以来、法廷サスペンスと海外の推理小説は好んで手に取るジャンルとなったのです。
著者パーカーは、私立探偵スペンサーを生んだことで有名です。
本書の主人公はスペンサーではないのですが、あのスペンサーが自分の規律に意固地なほど忠実な姿勢を取るのはなぜか?という背景を臭わせる作品です。
恋愛小説の形を取ってはいますが、むしろ「人が世界と向き合う1つの姿勢」を示した好書です。
いつもそうなのですが、とことん落ちぶれている人物に「激しい羨望」をおぼえる私です。
(2002年5月)
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