自殺って言えなかった。/自死遺児編集委員会・あしなが育英会編 サンマーク出版

正直に言って、私が何を言えるのか分かりません。
当事者が身を引き裂くように綴っている言葉に、推薦や感想の言葉なんてただの一語も生まれてこないのです。
ただ、この本を一人でも多くの人に読んで欲しいです。
誰にも言えずに、ひとり悩んでいる同じ境遇の人にも読んで欲しいです。
あなたは、ひとりではありません。

本書は、遺児と妻たちの手記と、2000年4月に出された小冊子『自殺って言えない』に対する返信手記が中心に編まれています。
『自殺って言えない』については、私も「2000年5月」の感想文で、紹介しました。
また1999年10月には『家族が自殺に追い込まれるとき』の感想で、「自殺とうつ」について書いてきました。
私の身の回りにも、友人、知人の自死がありました。

本書で綴っている方たちは、自分の辛い体験だけを訴えているのではありません。
涙を流しながら、震えるペンを走らせるのは、ただ同じ想いをする子どもや家族、近縁者を一人でも生み出したくない一念なのです。

その祈りに、私が何ができるのでしょう。
偏見ない社会にしたり、死の誘惑にかられた人たちに一時的でも耳を傾けたり、残された家族にそっと寄り添ったりすれば良いのかも知れませんが、残念ながらすぐに出来る事でも簡単に変われるものでもありません。

でも、たった一つ出来る事があります。
それは、この本を読むことです。
この本を、私たちは読むことが出来ます。
彼ら、彼女らの言葉を読むことが出来ます。

お願いです。読んでください。

私たちは、出来る事しか出来ません。
出来る事をしてもらうことが、彼ら、彼女らの祈りなのです。

本書の印税は、あしなが育英会の奨学金と「心のケア」の活動のために使われます。

あしなが育英会
http://www.ashinaga.com/

子どもが病気になったとき家族が抱く50の不安/池田文子 春秋社

告白します。
私は、彼女に救われました。

前作「転がる香港に苔は生えない」が第32回大宅荘一ノンフィクション賞を受け、賞と名が付くととりあえず読んで見る私の習性から、彼女に出会いました。(この習性の結果は、不満が募ることがほとんどなのですが・・・・)

写真の良し悪しは家族が突然病気に見舞われたときは、頭の中が真っ白になってしまい、混乱と不安が襲いかかって何をどうして良いかどうかも分からなくなってしまいます。
この病気は随分と悪いのだろうか?どんな病気なの?なんで我が家が?長く罹るのだろうか?ひょっとしたら死んでしまう事になるの?本人には伝えた方が良いのだろうか?この病院で大丈夫だろうか?もっと良いお医者さんがいるのではないだろうか?子ども達はどうしたら?明日から仕事はどうしたらいいのか?誰に連絡すれば?お金は?・・・

そんな時の具体的な手引きは、助かるというよりもむしろ必需だと思います。

著者は、「(財)がんの子どもを守る会」のソーシャルワーカーを長く勤め、そのような家族と向き合った経験をもとに、よくある質問を例に分かりやすく、具体的により実利的に書いてくれています。
小児がんや難病の子どもを抱えた家族が主な対象になっていますが、ここに書かれていることは、病気と向き合わざるを得ない家族やその関係者がもっとも必要とした書物です。
今までこのような本が少なかったこと自体、家族や病者に対していかに支援が少なかったのか、いかに孤独な立場に追いやられていたのかが垣間見られる気がします。

医療機関や教育機関との信頼関係、きょうだいへ関わり方、民間療法、親ごさんが心身ともに疲れてしまったとき、復学後への問題、同病の子どもが亡くなった時、医療ソーシャルワーカー、ボランティアをはじめたい人や同じような経験をしたボランティアの方への注意、病気の子どもを抱えている親に対して配慮すべき事柄・・・・

とにかく具体的で、問題の整理とすぐにその方法を取れる分かりやすさは、当事者だけではなく周りの人間にとっても本当にありがたいです。
家族にこの本を渡してあげるだけでも、有益だと思います。

本書は大きく6つの場面で構成されて、それぞれの時の問題その後に想定できる問題、持続的に考えてゆかなければならない問題などが箇条的に書かれています。
「子どもの病気が診断されたとき」
「入院生活のなかで」
「退院後の生活」
「病気になった子どもの気持」
「病状が深刻になったとき」
「患者家族と関わる身近な方へ」

また巻末の「福祉制度・福祉サービス」「宿泊施設に関する問い合わせ」「全国の親の会」「患者支援団体・自助グループ」「参考資料」などは、ひとりでがんばり、疲れ果てている親御さんに是非教えてあげてください。

小児がん関連のリンク集
http://homepage1.nifty.com/pediatrician/link.html分かりませんが、「裸の神経束」だった頃の藤原新也を髣髴させる「視線」を感じます。
藤原が、「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ。」と写し出したショックなはずの写真が、私にはなぜか清冽な印象とほっと重荷を下ろしたような救済を与えてくれて、「間違っているかもしれないけれど、とりあえず足には力を入れてみよう。」と決心した事を思い出しました。
藤原が、世界に一瞬浮上してきた浄土根を掬い取ったとしたら、彼女の写真は、世界にいつも沈殿している極楽根のヒソミ笑いを奏でています。
藤原が危険なら、避ける事も出来ましょう。
しかし、彼女の調べに一度耳を奪われたら、もう逃れる術はありません。

目の前の街角を曲がって行く彼女の背中を垣間見たような幻覚と、呟きとも対話とも判別つかないうめきが耳を離れることはありません。
それは、小さな自分の部屋でも、湯水に身を浸している時も、電車の規則的なリズムに夢心地な一瞬でも、ファミリーレストランのマニュアル通りの笑顔に遭った時でも、同じです。

彼女の写真と文章に出会った時、書き継いできた読書感想文を止めようと思ったものです。
そして本を閉じた時、今度はもう少し書き続けてみても良いかもしれないと、止まりかけていたペダルを踏み込む事にしました。

誕生死/流産・死産・新生児死で子をなくした親の会・著 三省堂

この本は、出産前後に子どもを亡くした13家族の手記です。

「がまんしなくていいの。思いっきり泣きなさい」
という親達の声と、同じ悲しみを抱いている家族へ手を差し伸べている祈りの書です。

生きていることの大変さ、尊さに心が震えます。

「誕生死」に関するHPは、下記アドレスです。
様々な反響とともに、お子さんを亡くされた方の支えとなってくれるHPも紹介してあります。
http://homepage3.nifty.com/angel-book/

三省堂HP「誕生死」のアドレスです。
読者カードの紹介や、「STILLBORN(詩)」が載せられています。
http://www.sanseido-publ.co.jp/publ/tanjosi.html

話を、聞いてください/少年犯罪被害当事者の会著 サンマーク出版
少年に奪われた人生 犯罪被害者遺族の闘いー/藤井誠一 朝日新聞社

本を最後まで読むことが、こんなに辛かった事はありません。

ある日突然奪われてしまったわが子や親族、理不尽この上も無い集団リンチによって非道にその尊い命を奪われてしまった事実、その加害者が少年達であることによって立ちはだかる法の壁、現行の法の理念が被害者を向いていない現実、臭い物に蓋をしようとする警察や学校や社会、やり場の無い悲しみや怒りや恨み。

少年法に限らず、日本の犯罪被害当事者に対する権利保障や庇護は皆無に等しいです。
「正直言って、彼らの更生する姿など見たくありません。」
この言葉を吐かせる、吐かざるを得ないほど追い込まれた人たちの存在は、薄っぺらな権利論を粉々に打ち砕きます。

少年犯罪被害当事者の会のホームページ
http://www005.upp.so-net.ne.jp/hanzaihigaisha/welcome.htm

犯罪被害者の会
http://www.navs.jp/

人が人を殺めることは、それ自体「地獄」です。
(2002年12月)