哲学の冒険「マトリックス」でデカルトが解る/マーク・ローランズ 講談社インターナショナル

難しい本は、極力避けたい気持ちになっている昨今です。
ましてや「哲学」などの言葉があるものは、他人にお任せしよう、ずいぶん前に『ソ フィーの世界』を読んだのだから(身についたかどうかは、別として)生涯もう読ま なくても良かろうと、勝手に思っていました。

しかし目次を見ると「マトリックス」「ターミネーター」「トータル・リコール」「エイリアン」「マイノリティ・リポート」が・・・・いずれもメジャー中のメジャー映画で、マニアックな映画ファンでなくても、ピクピクと食指が動いてしまう ではありませんか。

まあ、難しくて面白くなければ途中で止めればいいやと「第一章「フランケンシュタ イン」で実存主義が解る」を読み始めて・・・気がつけば「第9章「ブレードランナー」で死の意味が解る」356ページを一気に読み終えていました。

「スター・ウオーズ」のダース・ベイダーでニーチェを語ったり、「シックス・デイ」でのアイデンティティ論が「トータル・リコール」と連結したり、「インデペン ス・デイ」でエイリアン達への反撃可能な一点を道徳的無矛盾性と公平性の原理だと喝破したり・・・・いささか苦しいな〜と思うところも無いではありませんが、突っ込みと揶揄がピリッと効いた上、分かり易くユーモア溢れた口調(講義の内容を本書にしたので)には、思わず家族に一節を読み上げて笑い合ったりしたのです。(いや、本当に!)

注釈は、秀逸です。
(ルネ・デカルト・・・・(略)少なくとも昼時まで寝ているのが好きだった不精者。午前5時の起床を余儀なくされる仕事を得た後、死去。)
(イマヌエル・カント・・・・(略)これといったことが何も起こらない人生を送ったため、からかうのが難しい。そういえば大きな鼻を持っていた。)

個人的には、「第6章「インビジブル」でカントが解る」などがとても興味深かったです。
現代の諸問題(簡単に感じられるのですが、いざ答えようと思うととても複雑で難しい)は、論理的であったり、倫理的であったり、道徳的であったりする「理性」の外 側に半身出てしまっているのかもしれません。
答えの得られない問題が問題なのではなく、そのような問題の存在を注視することで、初めて我々は問題の外を感じる(知ることは出来ません)ことが出来るのです。
映画の餌に釣られて、とんでもないところに連れてゆかれてしまいますが、妙に新しい気分になるのは、問題の外からの風に頬を撫ぜられるからなのでしょう。


ー追伸ー

この本の書評を切り抜いて送ってくれたスカさん、ありがとうございました。
会うと必ず「徳さんの感想文とメール、楽しみにしていますよ。」と言ってくれて、他でもないスカさんに読んでもらっていることが、本当に嬉しかったのです。

数ヶ月前にこの本を紹介してもらって、今月感想文に書くことでお礼と闘病生活での笑話の一つにしてもらおうと思って準備していたのですが、間に合いませんでした。 もっと早く書けば良かったと、とても悔やまれます。

初めてお会いしたのが、私が学生の時からですから、かれこれ20年以上前になります。
私の放言に、笑いながら付き合ってくれて、別れ際に残してゆくスカさんの言葉が、いつも私の宿題になっていました。
最後の宿題提出にも遅れてしまいましたが、笑って許してください。

スカさん、ありがとうございました。